loadingIcon

special long interviewスペシャルロングインタビュー

信 役山﨑賢人

ついに映画『キングダム 大将軍の帰還』が完成しました。今回が映画『キングダム』シリーズの最終章となりますが、ご覧になった感想をお願いいたします。

映画が始まってすぐ、回想シーンからもう泣きそうでした。一作目の『キングダム』で信が王騎将軍と出会って、2作目・3作目といろんなことがありましたが、今回はずっとクライマックスが続く感じで。ストーリーの面白さはもちろん、『キングダム』の真骨頂が全部詰まっているのが、今回の『大将軍の帰還』なので、見終わって「とんでもない映画がまたできたな、この景色を見るために今までみんなで頑張ってきたんだな」と思いました。早くもう一回観たいです。

まさに全編クライマックス。アクション映画としても人間ドラマとしても、名場面がたくさんある本作ですが、まずは冒頭の吉川晃司さん演じる龐煖との戦いのシーンから振り返っていただけますか。

あのシーンでは飛信隊のみんなが龐煖の攻撃から信を守ってくれるところを見て、まずひと泣きしました。撮影のときも、信を絶対に生かす、信を守るっていう飛信隊の熱い思いや団結力をひしひしと感じて、信は気絶している場面ですが僕は演じながら泣いていたんです。みんなが守ってくれている陰で、「このシーン、ヤバい」と思っていました。
吉川さん演じる龐煖と対峙するのもすごく楽しみでした。吉川さんの龐煖が醸し出す空気感は半端じゃなくすごかったですが、信は龐煖相手に「ここなら絶対に討てる」という隙を見つけ、攻める。ただ、それを龐煖に見極められていて、信は一撃で致命傷を負ってしまいますが、龐煖をぎりぎりのところまで追いつめるアクションを意識しましたし、だからこそそんな信と羌瘣でも倒せない、歯が立たない相手が龐煖であるという表現ができたかなと。

尾到との森のシーンの感想もお願いします。

飛信隊のみんながそうであるように、尾到も信を支えてくれているというのがよくわかる、大好きなシーンです。のちに羌瘣が「尾到は、いい奴だったな」と言うセリフがありますが、尾到を演じる(三浦)貴大さん自身が本当にいい人で、貴大さんと尾到が重なってすごく切なかったです。

趙軍との戦いの撮影も大変だったのでは?

あまりにも壮大なシーンで撮影は大変でしたが、今回信は、大沢(たかお)さん演じる王騎将軍の背中とか戦いぶりを間近で見るシーンが多かったので、とにかく自分は信として、自分の責任を果たすんだという気持ちを強く持って演じていきました。飛信隊は、王騎将軍から「蒙武軍に向かってまっすぐ、それだけです」と指示を受けますが、王騎将軍の言うことはよくわからなくても絶対だと思える、そんな信頼関係があるんです。だから、飛信隊の持ち味である、とにかくまっすぐに進むことだけに集中するようにしました。

あらためて『キングダム』シリーズでの大沢たかおさんとの共演を振り返って、今思うことを教えてください。

1作目は、クライマックスで信が「天下の大将軍になる」と宣言するシーンで共演させていただいたのですが、現場での大沢さんのオーラがすごすぎて近寄れなかったのを覚えています。2作目からは、信が王騎将軍と一緒に戦場にも出るようになり、長い時間を一緒に過ごさせていただいたので、いろんな思い出があります。大沢さんは、言葉でアドバイスしたり、演技について語ったりするわけじゃなくて、本当に王騎将軍のようにその姿で見せてくださるんです。それがまたかっこいいなと思っていました。人としても役者の先輩としても尊敬できる部分ばかりで、『キングダム』でご一緒できたのは最高の時間でした。大沢さんご自身と王騎将軍からもらったもの、『キングダム』で受け継いだものは、信としても、個人としてもずっと大切にしたいと思います。

信と山﨑さんが一体化しているような感覚もあるのでしょうか?

僕自身が信に影響されている部分は間違いなくあります。信に対していいなと思う部分で、自分が実際生きていくうえでも大切にしたいことがいくつもありますし。たとえば、信は考え方がシンプルですが、本当に大事なことがわかっている。自分も、普段の生活でそうありたいなと思います。

信のシンプルさ、ピュアさが伝わるのか、信は子供たちにも人気がありますよね。

そうですね。まだ漫画を読んでない、映画しか見ていないような子供たちが『キングダム』とか信を好きだと言ってくれることがけっこうあります。信が戦うときのポーズをとるとめちゃくちゃ喜んでくれるのもうれしいです。

本作でも数々の修羅場、試練を乗り越えて成長していく信が見られました。信を演じるうえで変わらず大切にしている点、4作目で特に意識した点を教えてください。

熱量はずっと大切にしていますし、まっすぐ、ストレートに、濁りのない演技がしたいという思いも変わらず、ずっとあります。今回は3作目からの地続きの流れのお話ですから、信を演じる際に意識していることが大きく変わることはなかったですが、自分一人じゃなく飛信隊みんなで夢を見ている、みんなで戦っているということをより強く自覚して、隊の士気をあげ、みんなをまとめていこうという意識はこれまで以上にありました。冒頭の龐煖との戦いの後、王騎将軍に「つらいですか?」と聞かれるシーンでも、信は「今は深く考えないようにしている」と答えますが、それは自分だけじゃなくみんなのためにそうしているんだろうなと思います。信はこれまでも数々の修羅場を乗り越えてきていますし、めったなことで落ち込んだりすることはない。今回、信の中で、飛信隊隊長としての責任感がどんどん強くなっているのは感じました。

あらためて、山﨑さんにとって、飛信隊のメンバーは現場でどういう存在でしたか?

最高のメンバーです。コロナ禍の撮影だったので、あまりご飯に行ったりはできなかったんですが、一度だけ宿泊先のホテルのホールで集まって食事をしたときは、本当に飛信隊の宴みたいで楽しかったです。あとは一緒にお風呂に入ったりもしましたし、長い撮影期間、ずっとみんなと一緒にいました。

現場で、飛信隊の隊長、作品の座長として意識されていたことはありますか?

みなさん自分よりも年上で、すごく大人な、優しい方々なので、自分はのびのびと信をやるのみでした。みんないい人たちばかりでした。一つだけ言えるとすれば、『1』を経験していたのが、飛信隊の中では自分だけだったので、そのことを自信にして、自分は信を全力で演じることで、飛信隊のみんなの士気が上がればとは思っていました。その思いはシーズンを重ねても変わらなかったです。

アクションシーンではケガをすることもあったそうで、大変なことも多かったと思います。プレッシャーや責任ものしかかるなかで、やり遂げる原動力を教えてください。

『キングダム』の撮影は最高に楽しくて、やりがいがあります。『キングダム』という作品自体に熱いパワーもありますし、みんなが熱い思いを持って取り組んでいるのも最高だなと思います。『キングダム』シリーズで、みんなで一つの作品をつくりあげていく時間はすごく楽しかったですし、こんなに充実している時間ってないなって常に思いながら撮影していました。信は自分一人の力では絶対できなかった役で、本当に皆さんに支えてもらいながら演じてこられたなという思いです。世界中に自信をもって届けられる、ものすごい作品に参加できたことがうれしくて、ただただ感謝しています。『キングダム』に関しては、自分が出演している作品ですけど、「すごくないですか?」って、客観的になってしまうんですよ。こんな作品ができたことに自分でも驚いていますし、今回も見ながらずっと「すごい」「すごい」と思っていました。

『キングダム』シリーズのアクションについての感想を教えてください。

素手でのアクション、剣を使ったアクション、羌瘣とのチームプレイも面白いですし、現場で“アベンジャーズカット”と呼ばれている、飛信隊のメンバーそれぞれが戦っているのを見せるカットもすごく好きですし、馬上でのアクションもありますし……全部面白いです。
『1』で王騎将軍が矛を一振りしたときの衝撃はすごかったと思うんですが、今回はそんなカットがたくさんあるのにも感動しました。王騎将軍と龐煖のアクションも、どうなってるんだろう?って思うようなカットが多くてすごく面白かったですし、羌瘣のぐるぐる回るアクションも面白いし、ファンの皆さんが絶対に楽しみしているであろう、騰将軍の“ファルファル”も今回登場しますし、本当に早くもう一回観たいです。

『キングダム』シリーズは、2018年春に撮影が始まり、6年で、4本の映画が公開されることとなりました。あらためて『キングダム』シリーズへの今の思いをお聞かせください。

長かったような、あっという間だったような気もしますが、20代は『キングダム』と信と一緒に生きてきた感覚があるので、それが終わるんだなっていう寂しさと、やったぞっていう達成感と、またすさまじい作品を世の中に放出するんだっていうワクワク感が今はありますね。
1作目、2作目、3作目と、それぞれ違う形で『キングダム』の面白さが描かれていて、どの作品も、すべてがものすごいクオリティになっているのが、本当にすごいことだなと思います。これまでの3作で生まれたいろんな思いが重なって、信だったり、王騎将軍だったり、みんなの双肩にのって、どんどん前に進んでいるような感覚が『キングダム』にはあるんです。そんな熱さも好きですね。
今回の『大将軍の帰還』のために、今までの3作品があったと言っても過言ではないので、本当に多くの人に『大将軍の帰還』を見ていただきたいですし、何回でも見ていただきたいなと思います。それが僕自身の現段階での夢ですね。

王騎 役大沢たかお

前作から約1年、ついに映画『キングダム』シリーズの最終章となる『大将軍の帰還』が完成しました。完成作をどのようなお気持ちでご覧になりましたか?

完成した作品を観る前は、いつもドキドキするのですが、シリーズを通して今回が一番ドキドキした気がしますね。これを観たらもしかしたら自分の『キングダム』での役割がもう終わってしまうのかなという思いもあり、ある種の寂しさもありながら、試写の日を迎えた感じでした。
映画は、オープニングからラストまで、アクションとか仲間との絆とか、『キングダム』の真骨頂と言えるような、ありとあらゆる要素が込められていて、激しく、エネルギーに溢れた『大将軍の帰還』でした。撮影は少し前だったので、覚えていないシーンもあったのですが、逆にすごく冷静に、客観的に観ることができました。冷静になればなるほど心がすごく揺さぶられましたね。台本はもちろん読んでいたんですが、それ以上に、衝撃的な作品でした。
最終章ということでクライマックスの連続で、これまでの『キングダム』とはステージも次元もエネルギーもすべて違うレベルに達している。ほかの作品ならラストシーンに来るような、とんでもないアクションシーンから始まり、怒涛のように事件が起き、これまでの出演者がほぼ全員出てきて、それぞれのクライマックスを迎えていく。見たことのないぐらい濃厚な作品で、これぞ『キングダム』だと思いました。この『大将軍の帰還』をお客さんに観てもらうために、今までやってきたんだなと。観終わってとても感慨深かったです。

『大将軍の帰還』の撮影には、どのようなお気持ちで臨まれたのでしょうか?

ひとつの章としては大きな区切りになる話なので、ワンシーンワンシーン、当たり前ですけど後悔のないようにやり切ることを意識して臨みました。アクションも、これまでの3作では、王騎は矛を一振りするだけだったりしたのが、今回は秦軍の総大将として先頭に立って(趙軍に)攻め入ったり、吉川(晃司)さん演じる龐煖との一騎打ちもある。今までと同じような心構えでは足りないので、もっとエネルギーを満たして、現場に飛び込んでいった感じです。
撮影は、今思えば少し大変だった気もしますが、その当時はもう、自分も王騎と同じように戦闘モードに入っていましたし、僕だけじゃなく佐藤(信介)監督も、山﨑(賢人)くんも、ほかのキャストもスタッフもみんなそう。キングダムの物語と実際の撮影現場がイコールなぐらい、激しくてエネルギッシュな現場で、戦うのが当たり前の空気のなかで毎日撮影していました。今もう一回やれと言われても、自分にはこれ以上のことはもうできないと言えるぐらいまでやったと思いますし、スタッフ、キャスト全員が自分のできるすべて以上のことをやって、キングダムで戦う兵士たちのようにボロボロになりながらも、絶対にこの作品を成功させる、必ずお客さんに喜んでもらうということだけを信じて頑張っていた。そういう現場だったと思います。

吉川晃司さん演じる龐煖とのアクションシーンの感想もお願いいたします。日本映画には珍しい、ヘビー級のアクションでしたが。

たしかに見本とするようなものはあまりなかったです。日本映画のアクションは、動きが細かかったり、速かったりする戦いが多いと思うのですが、今回に関しては、監督が「鉄と鉄がぶつかり合うようなものすごく重い、重量級の戦いがしたい」とおっしゃっていました。

どのような準備をして挑まれたのですか?

アクションに関しては、吉川さんと二人で、サポートしてくれるアクションチームの方々とひとつひとつ手を覚えていきました。二人が持つ矛が長いので、ひとつひとつのアクションを冷静にこなさないと矛が相手の体に届いてしまう。全力で(矛を)振るので、当たってしまうととてつもなく痛い。これまで日本刀や剣の戦いはやったことがあるんですが、矛同士の戦いは経験がなかったので、準備も大変でしたし、撮影にも時間がかかりました。
現場で、あのアクションを朝から晩まで何日もかけてずっと撮っているうちに、だんだん朝昼夜もわからなくなってくるんです。それでもやり続けると、体にダメージも来るし、ケガもする。鎧を身に着け、重い矛を持ってアクションをするので、関節も痛めるし、体も腫れる。なかなか厳しい撮影ではありましたが、だからこそ、表面上ではなく、お互いの痛みやいろんな感情をぶつけ合うアクションシーンになったのかなと。
吉川さんと、お互いにぶつかり合って、体がボロボロになって、最終的に歩けなくなるほどでしたが、総大将の戦いってそういうものだと思うんです。大切なものを守るために、意地と意地、プライドとプライドをぶつけ合うのが『キングダム』の戦い。それを嘘偽りなく、全身で、山﨑くん演じる信に見せて、総大将とはこういうものだと示さないといけなかった。タフな撮影でしたが、これぞ『キングダム』というアクションシーンになっていると思います。

新木優子さん演じる摎とのシーンはいかがでしたか?

摎という存在が今の王騎を作っているというのは、1作目のときからすでにそうなので、僕は1作目の撮影初日から、摎とのエピソードをベースに演じていたんです。それが今回ようやく撮影できて、形になる。摎とのシーンは、何年間もこの日を待っていたと思いながら撮影していました。
そういうシーンはやっぱり、演じるのがすごく怖いです。何年間も待って、準備して、この関係性をイメージしてずっと演じていたので、ここでミスしてはいけないという思いがありました。でも、新木さんが摎を演じてくれて、一緒にお仕事できて本当に良かった。新木さんの演じる摎の美しさと崇高さ、凛とした姿は素晴らしかったですし、新木さんは摎にぴったりでした。

王騎の台詞は、原作漫画どおりのもの、グッとくるものが多かったですが、そういうセリフを発するうえで心掛けていたことは?

王騎の言葉は、信へのメッセージでもあります。王騎が自分の人生を通じて感じたことを、バトンを受ける者に対して、言葉で誠実に伝えなければ、という思いはありました。 ただ、基本的に王騎は面と向かって何かを教えたりするタイプではないので、信との関係で大切だったのは、戦場で一緒にいたり、戦う姿を見せたりすること。それが王騎なりの伝え方だったと思います。

信役の山﨑賢人さんとの関係は1作目から今作まででどう変わっていきましたか?

『キングダム』の信と王騎と同じ距離感でいることをすごく意識しました。最初は緊張感のある距離のほうがいいと思いましたが、2作目以降は、あえて計算することなく、現場が一緒になると自然にいろんなことを話すようになり、だんだんと信と王騎のような関係性が山﨑くんとも構築できたのではないかと思います。

信の成長を王騎が見守るように、山﨑さんの成長を見守っていた?

もちろんたくさん見せてもらいましたが、僕も同時に成長させてもらいました。準備期間も入れたら、およそ7年ぐらい『キングダム』に関わっていると思うのですが、『キングダム』を通して、山﨑くん、吉沢(亮)くん、そのほかの俳優さんも自分も含め、この作品にかかわる全員が成長していると思うんです。今では1作目のときとは全然感覚が違いますしね。映画の中のストーリーと同じように、スタッフもキャストもみんなで戦って挑戦して、みんなで天下の大将軍を目指していった。そういうチームだったような気がします。

大沢さんにとって『キングダム』シリーズはどういう作品になりましたか?

僕にとって『キングダム』は人生の宝物です。『キングダム』を通して夢みたいな時間を過ごさせてもらったこと、そしてスタッフ、共演者はもちろん、劇場に映画を観に来てくださった方、キャンペーンで回った地方でお会いした方、取材に来てくれる方、皆さんとの出会いに心から感謝しています。皆さんが『キングダム』を信じて、支えてくれた。それはもう本当に夢のようなことです。俳優業をやっていて、そんな作品に出会えることなんて1度あるかどうか。それほど奇跡的なことだと思いますし、そんな作品に自分が巡り合えたことにあらためて感謝しています。俳優としてだけではなく、自分の人生にとってかけがえのない出会いであり、時間でした。ダイヤモンドのように輝ける日々で、すごく素敵な7年間でした。

当初、王騎役のオファーを受けられたときは、1作目の結果次第で、続編が制作されるかどうかという状況だったと思います。1作目だけで終わってしまう可能性もあったにもかかわらず、王騎役を引き受けられた理由は何だったのでしょうか?

この王騎という役は、大変難易度が高いと思ったからです。プロデューサーも、「映画化で、おそらく炎上して叩かれるのはこの王騎です」とおっしゃる(笑)。僕も「確かに」と思いました。これだけファンの多い原作の、大人気のキャラクターですから、皆さんそれぞれに王騎に対するイメージがあって、こうあってほしいという思いがある。それを特定の一人物が立体的にしてしまうということは、イメージにそぐわないと感じる人もいっぱいいるはずですから、ある種のプレッシャーみたいなものはありました。自分には到底できる役ではないなと思ったんです。

だからこそやりたいと思われたのでしょうか?

この仕事は、いつ終わりが来るかわからないので、ある程度覚悟をもってやっていける仕事の方が楽しいんです。やりがいもありますし。この作品で王騎を演じてどうなるか、まったくの未知数でしたから、そういうときこそ自分の中の扉を開けて、自分から『キングダム』と王騎の旅に出てみるのもひとつの選択かなと思いました。それでダメだったら叩かれなきゃいけないし、役者を辞めなければいけない。王騎役は、それほど責任重大な役だと思いました。

結果は、絶賛コメントばかりだった印象です。王騎将軍の存在感が素晴らしくて。

どうでしょうね。あまりネットニュースなどは見ないのでわからないですが、ネガティブな意見は、よく聞くようにしています。「もっとこういう王騎であってほしかった」というような意見を風の便りで聞いたりすると、次はもっと頑張らなければと思いました。「漫画と違って体が細い」と言われれば、「やっぱり足りないんだな」と。それなら、まだ最後の撮影まで時間があるから、最後の最後までトレーニングすればいい。そういうふうに取り組んできました。

クランクアップを迎えたときはどんなお気持ちでしたか。

気が付いたら終わっていたという感じでした。毎日必死でやっていたのに、スケジュールを見たらもう自分の出番がない(笑)。この鎧を脱いだら、もう二度と着ることはないんだと思ったら、しんどかったです。ずっと当たり前につけていた防具だったので。ある日突然、自分の生きがいを奪われた感じでした。
現場でみんなが王騎と記念写真を撮りたいと言ってきてくれて、それが終わったら、どんどん着替えて帰っていく様子を見て、みんなは明日も現場に来るけれど、僕だけ来ないんだなと。でも、これほど幸せな時間を過ごした以上、別れが悲しいのは仕方がないことだと思いました。一緒に過ごした時間が濃ければ濃いほど、愛が深ければ深いほど別れは悲しいものですから。

約7年も関わられたシリーズものだからこそ思い入れが深いですね。

そうですね、佐藤監督とも話していたんですが、『キングダム』の実写化が発表されたころは否定的な意見ばかりを耳にしました。「なぜ『キングダム』を実写化するのか、そんなの無理だ」というようなことを言われましたし、聞きたくなくてもあちらこちらから耳に入ってきました。ほぼアウェイの状態でしたが、映画が公開され、だんだん世の中の見る目が変わってきて、だんだんファンが増えていった。そういう意味でも、過去にない思い入れがある作品です。続編からは、新型コロナウイルスとの戦いもありました。みんなで準備して、やっとクランクインできると思ったら撮影が延期され、ありとあらゆる計画が変更になり、制作期間も当初の予定の何倍もかかりましたし、いろんなことで苦戦しました。だいたいどんな人でも、そういうことがあると心が折れると思うんですが、この『キングダム』シリーズの場合は、「絶対に負けるか」みたいな雰囲気はありましたね。コロナ禍で撮影が始まったときは、皆のスイッチが入っていた。全員一致で同じ方向を見ていた気がします。『キングダム』をやる以上は、制作のうえでも戦わなきゃいけなかった。先ほども言いましたが、スタッフもキャストもみんなで不可能を可能にしようと挑戦し続け、『キングダム』の登場人物たちのように全員で戦ってきたこの7年間でした。スタッフ、キャスト全員に嘘がないから、この作品全編にわたって、ある種の特別なエネルギーが宿っているんじゃないかと、僕はすごく思います。

あらためて、素晴らしいチームですね。

佐藤監督、プロデュースチーム、スタッフ、キャスト、本当に素晴らしいメンバーが集まったチームです。それは現場でも思いましたが、完成した作品を見てさらにそう感じました。シリーズを重ねてどんどん高いハードルを越えてくるプロ意識と、技術を超えて、泥臭かろうが何だろうが意地でもお客さんに喜んでもらうんだという執念みたいなものを感じて、自分はすごく誇らしかったです。格好つけてもしょうがないじゃないですか。それではお客さんは喜ばない。このパワーとエネルギー、汗と涙こそが『キングダム』の真骨頂なんだと思います。僕はこのチームの一員でいれて、本当にすごくうれしかった。ただそれだけですね。心から参加できてよかったし、宝物を与えてくれた、みんなと出会えた日々に感謝しかないです。

最後に、映画の公開を楽しみにしている方にメッセージをお願いいたします。

これを観ないと今までのシリーズを観た意味がないので、まずは観ていただきたいですね。ここまで引っ張って申し訳ないですが、今作のために、これを観てほしくて我々は長い時間をかけて準備して、シリーズを積み重ねて、期待以上のものをお見せできるように頑張ってきたので、ぜひ劇場でご覧いただきたいです。ストーリーはもちろん、映像も今までで一番美しいですし、サウンドもさらに素晴らしくなっていますし、役者陣も映画『キングダム』集大成と思って、みんなが画面に自分の情熱を今までにないぐらいぶつけてきている。だから今作を観て驚く方も多いと思うんですが、この作品は本当に我々『キングダム』チームの、これまで見てくださった方、支えてくれた方への感謝の思いの表れなので、ぜひ受け取っていただきたいです。

プロデューサー松橋真三

『キングダム』シリーズ4作目にして最終章となる『キングダム大将軍の帰還』が遂に完成しました。アクションもドラマも映像も音も素晴らしく、見どころ満載。ラストを飾るにふさわしい作品ですね。

これを見てもらうために、映画『キングダム』シリーズを作ってきたと言っても過言ではありません。私が『キングダム』を映画化したいと思ったのは約10年前のことで、それ以来ずっと、自分の中の一時代を『キングダム』シリーズに費やしてきました。こうして完成し、素晴らしい作品に仕上がって感慨深いですし、試写をご覧になった方々から、すごいすごいと熱い感想を言っていただけるのが本当に誇らしく思っています。
映画『キングダム』シリーズは、日本の映画も世界に出して恥ずかしくないもの、むしろそれ以上にもっと面白いものが作れることを証明したいという思いで制作してきました。大ヒットしないと次がないという状態で常に挑んできて、次の作品が作れる確証がなかったときも「4作目が『キングダム』シリーズの一区切りになるから、絶対にそこまでやりましょう」とチームの皆に言っていました。誰かがやろうと思わないとできないことですし、自分の中に必ず成功できるという確信があったからこそ、そう言い続けてきましたが、その言葉が嘘にならなくてよかったです。

前作『キングダム 運命の炎』は、龐煖の登場で物語が終わっています。そこからほぼ1年後の公開となる本作へ物語をつなげるのはリスクもあったのではないでしょうか?

『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』も物語のいいところでパツンと切って続編につながりますし、日本の映画にもそういう作品があっていいんじゃないかと思っていました。『運命の炎』が見ごたえ的に足りないかというとそうではなくて、趙との「馬陽の戦い」に加え、嬴政の過去を知ることができる「紫夏編」もあって、見どころはてんこ盛りです。作品としての満足感が十分あるところに、さらに龐煖の登場がプラスアルファされているような状態であれば絶対に大丈夫だと考えていました。それに物語の続きを楽しみに生きるのも、また楽しいと思うんです。

今回の『大将軍の帰還』は全編がクライマックスのような内容になっています。

1作目から連綿とつながる物語が、『大将軍の帰還』でひとつのクライマックス、大団円を迎えます。この作品が全編クライマックスになるのは、作る前から決まっていたようなところがありますし、だからこそ絶対にここまで作りたかった。1本の映画で完結する場合は、キャラクターの説明がたくさん必要になってきますが、シリーズものの良さというのは、続編になれば、映画をご覧になる方がすでに各キャラクターを知っていること。登場人物が多くても、それぞれに感情移入でき、それぞれの物語が見た人の記憶に残る。今回は、おもな登場人物全員の集大成が、この作品に詰まっているというような構造になっています。

趙国の総大将で、自らを“武神”と呼ぶ最強の敵・龐煖役を吉川晃司さんにオファーされた理由を教えてください。

『キングダム』の秦国には信がいて、王騎がいて、嬴政がいて、羌瘣もいる。最強のメンバーが揃っています。対する趙軍の李牧や龐煖役には、その軍団を打ち負かす怖さを持つ説得力のある人をキャスティングしなければいけないし、そこが嘘くさくなったら終わりだと思っていました。吉川さんとは以前、別作品(『るろうに剣心』)でご一緒したことがあって。普段はとても優しいジェントルマンですが、内に秘めた哲学や強さは尋常ならざるものがあると感じていました。王騎役をお願いした大沢たかおさんもそうですが、龐煖のような役は、自分が絶対に太刀打ちできないような人をキャスティングしたくて、吉川さんにお願いしました。
吉川さんと、「龐煖とは何者か」という話をしたときに、普段は山にこもって毎日矛を振って、修行のように決まった型を繰り返し繰り返し練習している求道者、ひいては哲学者のような人物なのではという意見をいただき、なるほどと思いました。吉川さんは龐煖の哲学や強さの理由を突き詰めるために、一ヵ月間山にこもってアクション練習をされて徹底的に役作りをされていました。龐煖の生き様が戦い方に表れています。

王騎と龐煖の一騎打ちのシーンは圧巻でした。

今までの日本映画で見たことがないようなヘビー級のバトルを目指しました。アベンジャーズの中にいてもおかしくない二人が一騎打ちをするイメージで、監督は『キングコング対ゴジラ』のようなバトルにしたいと、私は『ダークナイト ライジング』のバットマンとベインの戦いに負けないものにしたいと言っていました。大沢さんには、1作目の『キングダム』で王騎をオファーしたときすでに、いつかあの対決を撮りたいという話をしていたんです。大沢さんは、1作目では14キロ増量されていましたが、今回は20キロほど増やし、本当にヘビー級の体になっていました。一方で吉川さんは山での修行によって、王騎とはまた違う、龐煖らしい筋肉の付け方をしてくださっています。 −今回の主な戦場となる、山に囲まれた釣鐘状の平地は、どこか実際の風景なのですか?
中国にある場所で、「馬陽の戦い」のクライマックスシーンを撮影するときは、ここで撮りたいと思っていたんです。幸運なことにロケハンは2019年にしていたのですが、その後のコロナ禍で実際に中国へ撮影に行くことはできなくなりました。そこで、キャストの演技は日本で撮影して、背景は中国のスタッフにあの山間部のデータをとって送ってもらい合成しました。この『大将軍の帰還』のポストプロダクションには1年ほどかけていて、VFXだけで、数百人のスタッフが参加しています。これほど大規模な日本映画はほかにないと思いますね。

趙軍を操る軍師・李牧を小栗旬さんが演じていらっしゃるのも豪華ですね。

「馬陽の戦い」は李牧のプラン通りに進んでいくわけで、李牧はそれほど恐ろしい人物です。出演シーンが多くない中で、そのことに説得力を持たせて演じられる人、かつ王騎という巨大な存在と対峙できる王騎より若い役者という観点で探すと、小栗さんしかいなかったです。小栗さんとは、『銀魂』からのお付き合いで、プロフェッショナルな方というのはよくわかっていましたが、小栗さんならではの李牧像を作ってくれて、今回もまた素晴らしい演技を見せてもらいました。

王騎と龐煖の因縁に関係する、かつての秦国六大将軍・摎役の新木優子さんも素敵でした。

仮面を脱いで振り返っただけで高貴なことが表現できる人というのはそんなにいないですが、新木さんにはそれができる。さらに馬にも乗れるし、何事も真摯に取り組んでくださる方だと知っていたので、ぜひ参加してもらいたいと思いました。馬に乗りながら剣を振るアクションシーンも実際にご自身で演じてもらっています。

王騎と摎の回想シーンほか、王騎が信へ将軍の見る景色を見せるシーンなど、原作の名シーンがたくさん詰まっています。

『キングダム』は、若者に未来を託す、“継承”の物語だと思っています。たくさんの若者に見てほしいし、自分の子供はまだ幼いですがいつか見てほしい。おせっかいかもしれませんが、私は若者に期待していて。誰もが老いて朽ちていきますし、自分もいつかそうなりますが、若いクリエーターたちが『キングダム』からいろんなものを吸収して、もっと面白いものを作ろうと思ってくれたらうれしい。 最初に大沢たかおさんに王騎役をオファーしたときに、そういう話をしたんです。「自分たちが残せるものを、『キングダム』でたくさん残しましょうよ」と。

継承する相手が信であり、嬴政であり、山﨑賢人さんであり、吉沢亮さんだったと。シリーズ最終章を迎えた今、お二人への思いを教えてください。

大きく大きく成長してくれたと思っています。『大将軍の帰還』で1作目の映像を使っている部分がありますが、二人とも今より少し幼いんですよね。今でこそ『キングダム』は豪華キャストと言われますが、1作目のときにはここまで言われていなかった気がするんです。1作目を作ったころの二人は若くて、若者に人気で、演技はもちろんうまいけれどまだまだ伸びしろのある存在だった。それが、『キングダム』シリーズを作っていく中で、そして他の仕事もたくさんしていく中で、二人とも日本を代表する役者でありスターになっていったのだと思います。本作を見ても二人の成長をひしひしと感じますし、役者としてもどんどんステップアップしている。本当に頼もしいです。

あらためて、4作品をともに作ってきた佐藤信介監督はじめ、『キングダム』チームへの思いをお聞かせください。

佐藤監督は本当に天才だと思っています。監督と一緒にやっていなかったら、この予算でこの迫力の作品は作れていなかったと思います。監督は、これは予算上できないということがあれば、それを逆手にとってこういう撮り方をしましょうというように新しいアイディアをどんどん出してくださる。仕上げにもものすごくこだわって、冒頭の過去のダイジェストシーンがこんなにワクワクするものになったのは、監督の手腕によるところが大きいですし、音楽の付け方ひとつとっても、監督がすごく練ってくれていいものになることが何度もありました。いろんなことを相談できる、尊敬できるパートナーです。
スタッフに対しても感謝しているとともに誇りに思っています。会話の中で、「前作に負けないようにしよう」という話がたびたび出てきましたし、いままでの日本映画で誰もやったことがないようなものをやるという意識は皆が持っていたと思います。日本映画ってこんなものだ、製作費の上限はこんなものだ、という枠を全部取り払って、全員ですごいものを作ろうという思いで取り組んだときに、これほどのエンターテインメント作品をうみ出すことができた。スタッフの皆も喜んでいると思いますし、『キングダム』のスタッフをしていると言うと、家族や親戚の反応が良いらしいんです。それがすごくうれしいという話もよく聞きますね。皆が見てくれるエンターテインメント大作を作っているという誇りが、スタッフそれぞれの自信にもなって、今後の日本の映画産業にいい影響を与えられればという気持ちもあります。

前作では、音にも相当こだわられて、ハリウッド大作に負けない音響づくりをされていましたが、今回も?

今回はさらにこだわっています。通常、音楽はスタジオでの録音になりますが、『大将軍の帰還』は包み込むような音楽にしたいという意図があり、90名余りのフルオーケストラを編成し、その演奏を大きなホールで録音しました。音楽は4作ともやまだ豊さんにお願いしているんですが、やまださんの母校の大ホールをお借りして録っています。効果音にももちろんこだわって、王騎と龐煖の矛が激突する音、騰が戦うときの“ファルファル”という音など、かなり研究して作り上げています。

ラストを締めくくる主題歌「Delusion:All」は、1作目以来となるONE OK ROCKによる楽曲ですね。

実は、1作目の主題歌をお願いしたときに、シリーズの最終章では、またお願いしますという話をしていました。当時はそれがシリーズ4作目になるか5作目になるのかわからなかったのですが、今回実現した形です。 主題歌は毎回、アーティストの方に「傑作を作ってほしい」とオファーしています。1作目以降、シリーズすべての主題歌をONE OK ROCKにお願いするとなると、毎年、前作の曲を超える傑作を作らなくてはいけなくなる。それはさすがに難しいですし、『キングダム』シリーズでは、日本を代表するトップアーティストに毎回主題歌を書いてもらうというコンセプトを立てて、2作目をMr.Childrenさん、3作目を宇多田ヒカルさんにお願いしてきたという経緯があります。

原作者で、映画の共同脚本も務めていらっしゃる原泰久先生とのこれまでのコラボレーションを振り返っていかがですか?

原先生は本当に発想が自由で柔軟な方。たとえば「原作はこうですが、2時間の映画にするにはこうしたい」とご相談すると、なるほどそれはいいですねと賛成してくださったり、こういう形はどうかとアイディアを出してくださったりするんです。ご自身の考えた原作に対してそのようにやりとりしてくださるのは、とても頼もしく、ありがたかったです。そうやって台本づくりを共にして、どの作品も、最終的に原先生に納得いただける作品が、いつも一緒に作れているような気がしています。
一方で私としては、台本は一緒に作っていても、完成した作品ではもっと迫力のある、とんでもないスペクタクルをお見せしたいという気持ちもあって。いつも先生を驚かせたいし、台本で思っていたよりもはるかにすごいものになっていたと言ってもらいたい。そういう思いで完成した映画をご覧いただいています。

あらためて漫画「キングダム」の魅力と、壮大なスケールの原作を映画化することへの覚悟を教えてください。

『キングダム』は、約2000年前を舞台にしたストーリーですが、人生における大事な物語がすべて詰まっていると思うんです。人類共通の楽しさ、悩みが描かれ、アクションもあり、成長物語もある、最高のエンターテインメントです。 私は日本の漫画文化は素晴らしいと常々思っています。宝の山がたくさんありますが、それを安易に実写化するのではなく、ちゃんと漫画と向き合い、製作費をかけて、しっかりした作品を作りさえすれば、誰が見ても面白いと思えるもの、世界に通じるエンターテインメントに絶対になるはず。『キングダム』の映画化が大成功すれば、漫画の実写化に対する世の見方も、日本映画の作り方も変わるでしょうし、自国の誇る漫画文化を大切に世の中に映画として出していく流れが、『キングダム』からできればいいなという思いはありますね。
『キングダム』シリーズは、後世に残る作品にしたいと思っているので、原作から、見せたいもの、伝えたいものをたくさん映画に詰め込んでいます。いつの時代でも、『キングダム』が見た人の心に響いて、熱い気持ちを持って、一緒に成長してもらえる。そんなシリーズになればいいなと思っています。

最後に、『大将軍の帰還』の公開を楽しみにしている方々にメッセージをお願いいたします。

『運命の炎』で熱く涙した方々へ。そして、いよいよ日本を代表するこれだけのすごいシリーズになって『キングダム』の世界に触れないとまずいな、と思っているすべての方々へ。お待たせしました。今まですべてがすごい作品でしたが、それらを上回る最高傑作が生まれました。どれだけ期待値を高く持っていただいても大丈夫だと保証します。そして、なぜ『大将軍の帰還』というサブタイトルなのか? それは、あえて言いません。映画のラストシーンまでご覧いただいたとき、その本当の意味が分かり、いまだかつてない感動と、熱い涙にむせぶことをお約束します。今夏、劇場の大スクリーンでお会いしましょう。